情緒あふれる街並みが人気の城崎温泉では、外国人観光客が、わずか8年で45倍にも急増しました。外国人を魅了する秘密とは何なのでしょうか。

宿泊客の9割が外国人、はるばる海外からのリピーターも殺到する宿では、「家族のような」おもてなしが大人気となっています。外国人観光客が“常連”になる城崎温泉の魅力を追跡しました。

■なぜ外国人急増?…弱点部分が大きく関係

日本海に面した、兵庫県豊岡市。情緒あふれる街並みが人気の城崎温泉。しだれ柳が立ち並ぶ大谿川を中心に1.6キロの範囲に、およそ190軒の旅館や飲食店の歴史ある建物が集まる温泉街です。

カナダからの観光客:「今は関西圏を旅行しているので、大阪や京都から城崎温泉まで移動距離が短くて、2時間くらいで着けるから来たんだよ」

2011年に城崎温泉に泊まった外国人は1118人でしたが、わずか8年でおよそ45倍の5万人以上に膨れ上がりました。

海洋採掘に関する仕事をしているという、アメリカ人のサラさん(30)。日本のアニメが大好きで、今回初めて来日しました。

サラさん:「インドで1週間仕事をしていて、アメリカに戻る前に休暇で日本に来たの」

10日間の休暇で日本にやってきたというサラさん。日本の数ある温泉の中から城崎温泉を選んだ理由は?

サラさん:「リラックスして温泉に入りたいの、疲れているから。ここにいる間はプランを立ててないの。小さな街で温泉に入ってゆっくり休みたいのよ」

城崎温泉の最大の特徴は、外湯と呼ばれる7つの公共温泉施設です。

2週間や3週間の長期休暇を取り、日本を訪れている外国人観光客。京都や大阪からアクセスが良いため、旅の疲れを癒やす休息場所として城崎温泉が選ばれているようです。

そして、外国人観光客にとっては、意外と重要な理由がこれ!

サラさん:「私はタトゥーがあるから、それでも入れる温泉を探したのよ」

実は7つの外湯すべてが、タトゥーOKなんです。

UTSUROI TSUCHIYA ANNEX館長 山田一輝さん:「コロナ前の状況に戻ってきている。特に外国人のお客さんが現在8割を占めています」

外国人が急増している背景には、城崎温泉の元々弱点だった部分が大きく関わっていました。

山田さん:「城崎温泉は家族経営の(小さな)宿が多く、団体客を受け入れるのが難しい。欧米の客は個人で来る人が多いので、(個人客に)ターゲットを絞ってきた」

この城崎温泉の特徴が、欧米のインバウンド客が急増している現状とうまく歯車がかみ合った格好です。

この機を逃すまいとアメリカのハリウッドなどで、積極的なPR活動も行っています。

では、今訪れている外国人観光客が、城崎温泉を知ったきっかけは何なのでしょうか?

アメリカからの観光客:「いろんな人がインスタグラムで城崎温泉のことをあげていて、それで調べて来ました」

ハンガリーからの観光客(インスタグラムから):「浴衣を着て温泉巡りをし、柳並木とのどかな雰囲気の街を散策して、今すぐにでもまた行きたい場所」

■外国人リピーター7割の旅館「オーナーが素晴らしい」

江戸時代から続いているという、森津屋旅館。いまや宿泊客のおよそ9割が外国人観光客だそう。さらに、その客には驚きの特徴がありました。

スイスからの観光客:「セカンドタイム ドゥーユーリメンバー?(2回目だよ、覚えているかい?)」
森津屋 代表・蜂須賀貴之さん:「イエス!」

外国人のリピーター客がとっても多いんです。

スイスから来た夫婦は、4年前にも、この旅館に泊まったといいます。

スイスからのリピーター:「この旅館に来たのは2回目だよ。とにかくオーナーが素晴らしい!とってもフレンドリーなんだ!」

この日は、外国人宿泊者6組のうち、半分の3組がリピーターでした。

蜂須賀さん:「特に春、紅葉の秋はリピーターが本当に多い。半数近くがリピーター」「(Q.多い日は?)(リピーターが)7割くらい」

なんと多い日には客の7割が外国人リピーターだというこの旅館。人々をそこまで惹きつけるワケは一体何なのでしょうか?

■店主が決まって行う“写真撮影” 口コミにも…

旅館の自慢は、貸し切りで使える露天風呂。

さらに、但馬牛のステーキやベニズワイガニなどを使った会席料理。1泊2食付きで、1人2万2000円からです。

店主の蜂須賀さんは、客が来ると決まって行うことがあります。それは写真撮影。しかも場所を変えて、何枚も撮影するんです。

蜂須賀さん:「ベリープリティー」

アメリカからの観光客:「とても素晴らしいサービスです。感動しました」

旅行サイトの口コミには、こんなコメントが書かれています。

ニュージーランドからの観光客:「オーナーは街中で本格的な写真撮影をしてくれました。桜の木と一緒に素晴らしいショットを何枚も撮ってくれました」

蜂須賀さん:「海外旅行をされて思い出に残る写真を撮りたいじゃないですか、誰でも。ずっとセルフで撮っているので、私は背景を入れたり全身下駄(げた)まで写真に残してあげたい」

■夕食のお店探しが難航 店主どう対応する?

アメリカから来た4人組の女性が、夕食の店になかなか入れず困っていた時は…。

蜂須賀さん:「ベジタリアンの方もおられるので、対応できるレストランが空いているのか」

知り合いのお店に直接確認に行くこともあります。
  
蜂須賀さん:「マイフレンド オーナー、オンリーワンショップ オープン」

アメリカからの観光客:「アリガトウゴザイマス」

無事に4人は、望み通りの夕食を取ることができたそうです。

蜂須賀さん:「こんな体験したよ、日本で。それも城崎はとても良かったよ」「(Q.それを見た人がまた?)結局その循環ですよね。ファンを作るということは」

■カナダからの観光客「家族や友人のようにもてなしてくれる」

カナダからの観光客 プラビーナさん(29):「ワー、もう支度ができている。カニだわ、ここの特産なのよ」

カナダから日本に新婚旅行でやってきた、プラビーナさんとエルドリッチさん(35)。

エルドリッチさん:「料理の盛り付けがとても繊細だ」

プラビーナさん:「そうね。盛り付けがとても上手」

日本が大好きだという妻のプラビーナさんが、インターネットで森津屋旅館を探したといいます。

プラビーナさん:「この旅館は、家族や友人のようにもてなしてくれる。とても親切で、いつも幸せそうで、ゲストに何かしてあげたいって思ってくれている感じね」

食事の後、街を散歩するという2人にちょっと同行させてもらいました。

エルドリッチさん:「こんな景色が見られるなんて夢にも思わなかったでしょ」

プラビーナさん:「そうね。みんな浴衣を着ているのがいいわね」

古い建物に町の中心を流れる小さな川。日本の伝統的な温泉街の風景が2人にとっては新鮮に映るようです。

■店主流のおもてなし“客の要望をかなえる”

翌日のチェックアウトの時、電車の時間まで荷物を預かってもらうことに。すると…。

蜂須賀さん:「もしよければ駅に私が荷物を持って行きますよ」

プラビーナさん:「オー、イイですか?」

プラビーナさんは、最後にどうしても買いたいものがあるそうです。それは…。

プラビーナさん:「電車に乗り遅れるのが怖いから、急いでお弁当を探さなきゃ」

これから京都に行くという2人。帰りの電車でカニの弁当を食べたいそうです。しかし…。

プラビーナさん:「(弁当が)イナイ…」

駅の売店は、すでに売り切れていました。

そこに、2人の荷物を運んできた蜂須賀さんがやってきました。

プラビーナさん:「カニのオベントウはドコでモラエマスカ?(その売店は)ノーモア、おわった」

蜂須賀さん:「終わった?ちょっと待って」

すると蜂須賀さんが急いでどこかに向かいました。電車の時間まで、もう15分しかありませんが…。

蜂須賀さん:「きょう、カニのちらしってできますか?」

店主:「はい」

蜂須賀さん:「OK!」

顔馴染みのおすし屋さんにお願いして、急いでカニ弁当を作ってもらいました。

プラビーナさん:「ありがとうございます」

客の要望をできる限りかなえてあげるのが、蜂須賀さん流のおもてなしです。

プラビーナさん:「大勢の人が森津屋にリピーターとしてくる理由が分かるわ。家族や友達全員に城崎温泉と森津屋旅館を勧めるわ」「ホントウにアリガトウゴザイマス」

一人ひとりの観光客が自分の国に帰り、周りの人に勧めることで、ここに外国人観光客が絶えず訪れているようです。
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